胎児心拍モニター(分娩監視装置)の判読

助産師として働いている人向けに、胎児心拍モニター(分娩監視装置)の判読について解説します。

目的

  • 胎児心拍モニターを正しく装着、判読することによって胎児の健康状態や子宮収縮の有無を把握する。
  • 分娩期に正しく胎児の健康状態を把握することにより周産期異常の早期発見につなげる。

必要物品

  • 胎児心拍モニター(分娩監視装置)
  • 陣痛計
  • 胎児心拍数計(双胎の場合は2個)
  • モニターベルト2本(双胎の場合は3本)
  • 胎児振動刺激装置(振動音響刺激試験−VAST時に使用)
  • モニター記録用紙
  • 超音波ゼリー
  • テッシュ、またはタオル(検査終了時にゼリーを拭き取るために使用)

方法

1.情報収集

  • 検査の前には必ず妊娠週数、単胎か双胎か、児の推定体重などの情報収集をする
  • 可能であれば、カルテから前日のモニター記録を確認し、普段の胎児心拍数や母体のバイタルサインを確認する(※)
※子宮収縮剤の投与、子宮内発育遅延、母体発熱などにより胎児頻脈が認められる事があるため。

2.検査の説明をする

  • 妊婦の元へ挨拶に行き、検査の必要性、所要時間などを伝える
  • 必要に応じて、検査前にトイレを済ませてもらう。検査の時間が指定されていなければ患者の都合に合わせ時間をずらす(※)
※検査中にトイレなどで中断となると正確な検査が実施できないため。

3.検査の準備をする

  • ベッドを20度程度にギャッジアップし、モニターベルトを妊婦の体の下へ敷く。その際、腹部増大による仰臥位低血圧症候群を予防するため、妊婦の姿勢に留意する。
  • 機械の電源を入れ,作動を確認する。施設によっては,患者登録をするためのデータ入力、バーコードで患者認証などを行う。

4.触診をする

  • 妊婦の腹壁の状態や、胎位・胎向を確認する(※)
※プローブを当てる位置の検討をつけるため。モニターだけに頼らず、自分の手で腹壁の状態を知ることが大切。

5.プローブをつけ、ベルトで固定する

  • 胎児心拍計のプローブにゼリーをつけ、胎児心拍聴取部位に当てる。しっかりと持続的に胎児心拍が聴取できていることを確認できたら、ベルトを巻いて妊婦の腹部に固定する(※)
※適切な位置に固定しないと、心拍音が断続的になったり、母体の脈拍を感知してしまうなど、正確なデータが得られないため。
  • 陣痛計のプローブにゼリーをつけ、腹壁が最も硬くなる子宮底部に当てる。プローブが浮いてしまわないよう腹壁に対して垂直になるようベルトを巻き固定する。
  • 腹部が露出することで身体が冷えないよう、衣服やかけものを調整し保温に務める。
  • ベルトの巻き方が苦痛ではないか妊婦に確認する(※)
※巻き方がゆるすぎると正確に子宮収縮を感知しないが、きつすぎると妊婦の腹部を圧迫し苦痛を与える。

6.子宮収縮がない状態で陣痛計をゼロ設定にする

  • 陣痛計のプローブを装着した直後は、陣痛計の数字が高いままになっていることがあるため、腹壁が柔らかい時の陣痛計数値をゼロに設定する。

7.モニター記録を適宜確認する

  • できる限り、最初の子宮収縮が確認されるまでは妊婦に付き添い、触診により確認した子宮収縮とモニターに表示される陣痛計の数値が矛盾していないか確認する。
  • 少なくとも装着後およそ10分以内のタイミングで訪室し、正確にモニタリングができているか確認する。
※妊婦の体位変換でプローべがベルトから外れていたり、胎動により胎児心拍聴取部位がずれてしまうことがあるため。
  • 胎児心拍数が睡眠パターンになっていることが予測される時はVAST(振動音響刺激試験)を実施する。

8.モニタリングの評価をする

  • 25〜30分間装着した時点で、陣痛の状態と胎児の健康状態の評価を行い、検査を終了するか、継続するかの判断をする。
  • 終了する場合、妊婦にその旨を伝え、モニターを外し腹部のゼリーを拭き取る。印刷された記録用紙は、終了時の胎児心拍波形がしっかり確認できるよう余白部分を少し残して切り離す。記録は紛失しないよう所定の場所に保管する。
※胎児の健康状態の評価方法は後述します。

9.評価をした内容を記録する

記載例:施設によって記録のマニュアルは違うと思われます。一例として参考にしてください。

陣痛発作中の記録例

S)痛いー。
O)陣痛発作2分毎。陣痛持続時間30秒。腹壁しっかり硬くなる。間欠時も会話困難。
FHR baseline140、variability 、accelerationあり、陣痛発作時decelerationあるもすぐに回復。子宮口全開大している。
A)加速期に入っている。1時間以内に分娩となる予測。児reassuring pattern。
P)分娩準備する。
※健常な胎児の状態をreassuring fetal status(RFS)と呼ぶ。
安心できない胎児の状態をnon-reassuring fetal status(NRFS)と呼ぶ。

モニタリング評価の仕方

胎児の健康状態は以下の4つの視点で評価する。

方法8「モニタリングの評価をする」の補足説明です。

①胎児心拍数数基線(baseline)

モニター記録用紙の縦の1列は1列20秒で表示されているものがほとんどだが、このモニター記録用紙を広げて、10分間の区間で安定している(大きな心拍数の変化がない)箇所を見ると、だいたいいつも胎児の心拍数が落ち着く値が見えてくる。これが胎児心拍数の基線となる。

正常範囲は110〜160bpmの間で、5の倍数で表す。bpmとは、1分間の拍動の数。

持続する頻脈(160bpm以上)や、徐脈(110bpm未満)は、何らかの異常が起こっているサインとみなし、適切な対応をとらなければならない。まずは、医師へ報告する。

例:胎児頻脈が持続する場合、妊婦の発熱、子宮収縮抑制剤の使用、脱水、子宮内感染などを疑う。
胎児心拍数数基線 = 10分間の平均した胎児心拍数

 

②胎児心拍数基線細変動(variability)

細変動の振幅は6〜25bpm(細変動中等度)が一般的。胎児心拍の変動がなくなったり減少することは、胎児のストレスサインのひとつ。胎児の健康状態を評価する際、大切な情報となる。

胎児心拍数基線細変動 = 胎児心拍数の細かい変動

③一過性頻脈(acceleration)

胎児が元気に動いているとき、心拍数は一時的に速くなる。大人でも、たくさん動くと心拍数が一時的に増加するがそれと同じ。

モニターの記録用紙を見ると、胎児が動いている時などは明らかに心拍数の波形が山のようになっているので一目瞭然。胎児が元気な印。

上述の通り、一過性頻脈は胎児心拍数が15秒以上2分未満で15bpm以上増加する所見で、増加し始めてから30秒未満の間に、急速に15bpm以上増加する心拍数波形のことを指す。

※32週未満では胎児の心臓機能の未熟性がら胎児心拍の変動は少なく、心拍数増加が10bpm以上、持続が10秒以上のものと定義されています。
(引用元:日本産婦人科医会 https://www.jaog.or.jp/lecture/3-スタートアップ3(胎児が健全である証拠)/)
一過性頻脈 = 15秒以上2分未満の間で急速に増加する、15bpm以上の胎児心拍数増加

④一過性徐脈(deceleration)

一過性徐脈にはいくつかの種類と、考えられる原因がある。

  • 早発一過性徐脈:児頭圧迫による圧変化
  • 遅発一過性徐脈:胎児機能不全による低酸素状態
  • 変動一過性徐脈:臍帯圧迫などによる圧変化
  • 遷延一過性徐脈:圧変化・低酸素など様々

陣痛の後に、30秒以上続くような遅発一過性徐脈の波形が見られる場合は、とにかく助産師は産婦さんのもとに状態を確認しに駆けつける。徐脈の程度にもよるが、この遅発性一過性徐脈の波形がみられる場合は、なるべく早いうちにお産にする必要がある。

この波形を見つけた助産師は、まず産婦さんの体勢を変えたり、医師の指示に基づき産婦さんへ酸素投与などをした上で、必ず医師へ経過報告する。児頭や臍帯圧迫などによる圧変化が原因の場合は、妊婦さんの体勢を四つ這いなど胎児に負担のかかりにくい体勢に変えることで多くの場合は胎児心拍が回復する。

基線に回復せずに徐脈が45秒〜2分以上続く、また、繰り返し遅発一過性徐脈がみられる場合、緊急帝王切開や急速追娩の準備をしなければならない。

一過性徐脈 = 15秒以上2分未満の胎児心拍数減少

まとめ

胎児心拍モニタリングを正確に行うこと、判読できることは、病院で分娩を取り扱う助産師業務の基本中の基本です。しっかりと基本を押さえて、安心安全な周産期のケアができるように頑張りましょう。

注意書き
本コンテンツは、助産師監修のもと、ページ公開時の産婦人科ガイドラインや書籍の情報などに基づき記述したものです。情報は日々更新されますので、実際のケアにあたる際は最新の情報や医師の指示を確認した上でご参考にしていただければと思います。また、本コンテンツの情報により生じたトラブルや損害、不測の事態などについては一切の責任をおいかねますので予めご了承ください。