助産師の職場にパワハラはある?実体験と対処法を紹介

みなさんは、日々、診療業務に携わるなかで、一度はパワハラと呼べるような経験をしたことがあるのではないでしょうか。

助産師の職場もパワハラと無縁ではありません。2005年には、パワーハラスメントを受けた助産師が自ら命を断つという痛ましい出来事があり、労災が認定されています。

パワハラはときに命に関わる重大な問題です。今回は、パワハラが起きる環境的要因やパワハラを受けたときの対処法について、実体験を交えながら紹介します。

パワハラとは?定義を確認

まずは、パワハラの定義を確認しましょう。パワハラはパワーハラスメント(power harassment)の略で、和製英語となります。2000年代から広く使用されるようになりました。

厚生労働省の雇用環境・均等局による資料『パワーハラスメントの定義について』によると、パワハラは以下の3つの要素全てを満たしたときに認定されます。

  1. 優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  2. 業務の適正な範囲を超えて行われること
  3. 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

パワハラの具体的な例としては、大きく以下の6つのパターンに分けることができます。

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

下記の資料では、具体的なパワハラの事例や裁判におけるパワハラの定義などが紹介されています。参考にしてください。

医療現場におけるパワハラの実態

どんな職場でもパワハラは起こり得ますが、医療現場も例外ではありません。

自治労連が2018年に行った「自治体病院に働く職員の労働実態アンケート」によると、パワハラを受けたことがあると答えた看護職員は42.8%でした。およそ2〜3人に1人の職員がパワハラを受けた経験があるということになります。

パワハラを受けた相手は、上司が最も多く56.1%、次に医師が32%、同僚13.4%、患者8.5%、患者の家族5.1%と続きます。

なぜ医療現場でパワハラが横行するのか

先に紹介したアンケートは看護職員を対象にしたものでしたが、助産師の職場でもパワハラは起こっています。そこには医療現場独特の背景があるかもしれません。

ストレスの多い職場

あくまでも個人的な見解ですが、常に緊張感が張り詰める臨床現場の雰囲気がパワハラの遠因となっているように感じます。

助産師を含む臨床に携わる医療従事者の中には、ミスが許されない環境に置かれ、常に気が抜けずストレスを抱えながら仕事をしている人が少なくありません。

中には、自分より弱い立場の職員をターゲットにして、日々感じるストレスのはけ口として利用するような人も見受けられます。

過大な責任を負わされる職員

また、医療現場では何かミスや事故があると、必ず原因を明らかにして対策をとらなくてはいけません。事故が起こる背景には、様々な環境的な要因がありますが、分析方法が適切に行われないと、誰か一人に責任を押し付けたり、犯人探し的な雰囲気になる傾向もあります。

一職員のできることは限られているのに、過大な責任を負わされ、スケープゴートのように扱われるというケースは私も多く見てきました。

上司、先輩の指導

先に紹介したアンケートでは、パワハラを受けた相手として最も多かったのは「上司」でした。私自身も、上司や先輩からパワハラを受けた経験があります。

専門技術を習得するためには、最初のうちは現場で、先輩の指導を受けながら経験を積んでいく事が必要です。そういった指導がパワハラに変化することは珍しくありません。

助産師や看護師の方の中には、点滴や採血などの処置中に、患者さんの前で先輩指導者に怒られたことがある人もいるでしょう。

私は、実習現場でお産介助中、指導助産師に体をつねられたり蹴られたりという暴行とも言えるような指導を受けたことがあります。同じ助産師学校の同級生も同じような経験をしていました。

指導者と学生という立場から、その時は我慢して受け流すしかないと思い何もできませんでしたが、今振り返ってみるとあれは立派なパワハラです。

助産師として総合病院で働いている間も、先輩助産師から酷い言葉を投げかけられることがあり、つらかったことを覚えています。毎年、先輩助産師に目の敵にされ、怒られている新人さんを見るのも精神的な負担となっていました。

パワハラにあったらどうする?対処法を紹介

実際にパワハラにあってしまったら、どうしたら良いのでしょうか。以下、対処法をご紹介します。

信頼できる人に相談する

同期や、信頼できる同僚に打ち明けてみましょう。愚痴り合うだけで根本的な解決にはならないかもしれませんが、一時的に気持ちは楽になります。

相談窓口を利用する

職場にパワハラなどを相談できる窓口があれば利用しましょう。

適切なアドバイスを受けられたり、組織としてパワハラを行った職員への指導などが行われたりする可能性があります。

ただし、相談窓口がまともに機能しておらず、全く頼りにならない可能性もあります(後述します)。

職場の窓口が信頼できない場合は、下記のような相談機関があるので、利用してみることをおすすめします。

転職する

転職を考えてみましょう。私の場合、相談窓口のスタッフが相談者の個人情報を他者に話していた、という過去を知ってしまっていたため、最初から相談窓口に行くという選択はせずに転職を選びました。

10年近く務めた病院ではありましたが、相談窓口に相談してまで働き続けたいと思える病院ではなかったという個人的な事情もあります。

本来ならば、残される後輩スタッフのためにも、上司のパワハラについて告発し、少しでも労働環境を良くするための行動をとるべきところでしたが、あまりにも精神的な負担が大きいと判断したので、家族の事情を持ち出し「円満退社」という道を選びました。

一度きりの自分の人生、選択肢はひとつだけではありません。

看護師、助産師という資格があればいつでもやり直せます。パワハラに悩み続けていたり、何年も転職を考えているのであれば、勇気を出して環境を変えてみるのもひとつの道です。

まとめ

パワハラはどんな職場でも起こり得ますし、助産師の職場も例外ではありません(もちろん、パワハラのない健全な職場もあるでしょう)。

今現在、パワハラで悩んでいる方は、記事の中で紹介したような相談機関に問い合わせてみることをおすすめします。

ときに命に関わる重大な問題ですから、場合によっては職場を変える、またはひとまず退職するという選択肢も考えてみてください。

また、パワハラは往々にして上司と部下、先輩と後輩といった明白な力関係が背景にあります。自分自身が上の立場に立った時には、パワハラを行うことがないよう注意することも必要です。