助産師という仕事の将来性や今後の需要について気になっている方は多いのではないでしょうか。産婦人科医不足や助産師の活躍の場の広がりにより、需要が増すという見解がある一方、近年の少子化の影響から、需要が減少していくのではと危惧する声もあるようです。
そこで今回は、助産師の将来性や今後の需要、これからの時代に求められる役割について、いくつか統計データを参照しながら解説します。
助産師は将来もずっと必要とされる職業
まず、前提として押さえておきたいのは、助産師という職業がなくなることはないということです。(人類が存続する限り)出産という行為は今後もなくなることはありません。出産に携わる専門家も必要とされ続けます。
もちろん、科学技術の発達や社会の変化により助産師という仕事の形が変容していく可能性は考えられます。さまざまな職業が今後、AIに置き換わるとも言われています。とはいえ、助産師がそれらに完全に取って代わられるということはおそらくありません。助産師という仕事は分娩介助だけでなく、産前産後における対面でのコミュニケーションが主要な業務になっているからです。少なくとも今助産師を目指している方々が生きている間に、助産師という職業がなくなることはないでしょう。
助産師の就業者数の推移
助産師として働いている人はどれだけいるのでしょうか。
厚生労働省が発表している平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)によると、助産師の終業者数は36,911人(※)となっています。2008年以降の助産師の就業者数の推移は下記の通りです。
※日本看護協会が発表している人数とは異なります。おそらく統計方法の違いによるものと思われます。
2008年 | 2010年 | 2012年 | 2014年 | 2016年 | 2018年 |
---|---|---|---|---|---|
27,789人 | 29,672人 | 31,835人 | 33,956人 | 35,774人 | 36,911人 |
(平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況より作成)
以下は、上記のデータを元にしたグラフです。2008年から2018年までに助産師は約9000人増えています。
助産師は不足している?少子化の影響は?
前述の通り、助産師の就業者数は2018年時点で【36,911人】でした。この数が多いのかどうかを判断するためには、必要とされている助産師の数を把握しなければなりません。
「助産師の必要人数」は満たしている?
2015年3月に日本看護協会が算出した助産師の必要人数は【38,938人】です。2018年時点での助産師の就業者数36,911人よりも2,000人ほど多い数字となっています。この数字だけを見るならば、助産師はまだ足りていないということになります。
ただし、日本看護協会が算出した助産師の必要人数は、2014年の年間出生数1,037,231人を元にしたものです。2019年の年間出生数は、予測よりも2年前倒しで90万人を割り、86万4千人でした。この数字を元に必要な助産師の人数を算出した場合、【38,938人】という数字から大きく減少することが予想されます。
このことから、最新の出生数を基準に考えた場合、統計上、助産師の数が不足していると言うことはできないでしょう。
少子化が助産師の仕事に与える影響
出生数が減っているということは、つまり分娩件数が減少していることを意味します。分娩介助や産前、産後のケアは助産師にとって主要な業務ですから、将来的な助産師の需要を考えたときに少子化は無視できない要素です。
助産師の偏在という問題
出生数の急激な減少に伴い、「助産師の必要人数」も減少していることが予想されますが、助産師の勤務地や就業場所に偏りが見られることは考慮に入れなければなりません。
先にも紹介した平成30年衛生行政報告例によると、人口10万人当たりの助産師の数の平均は29.2人となっています。島根県(47.9人)や長野県(42.5人)など、平均を大きく上回る地域がある一方で、埼玉県(23.1人)、千葉県(23.9人)は平均よりも助産師の数が少なくなっています。
このような助産師の地域偏在の問題に加えて、就業場所の偏在も課題とされています。助産師の主な就業場所には病院、診療所、助産所がありますが、診療所に務める助産師の数は、分娩件数に比べて非常に少ない状況であることが分かっています。
これらのことから、地域や分娩施設によってはまだまだ助産師が不足している現状が見て取れます。私が勤めていた病院でも、分娩件数の多さに比べて助産師の数は少なく、かなりの忙しさでした。私個人の実感では、助産師が足りているとは思えないと言うのが本音です。
産婦人科医不足の影響
少子化によって分娩件数が減っている一方で、産婦人科医の不足も大きな問題となっています。そんな中で期待が寄せられているのが助産師です。実際に、各病院や診療所において助産師が果たす役割を大きくしようという試みは行われています。一例としては、助産師外来を行う病院、診療所の増加が挙げられるでしょう。
ただ、産科医不足という問題は、助産師に業務を移譲していくだけで解決できることではありません。国による政策的な後押しがない限り、産科医不足が助産師の需要増大に直結するとは思えません。
活躍の場は広がっている
助産師外来の普及や産後ケアの重要性の認識など、従来に比べて助産師の活躍の場は広がってきています。実際に雇用の増加、需要の増大が継続していくかどうかは不透明ですが、助産師の持っている知識と経験を必要としている人が大勢いることは間違いありません。
高度な知識を有する助産師が求められてくる
少子化の影響などを考えれば、助産師資格を持っていればどこにでも就職できるというような、引く手数多といった将来がやってくることはないでしょう。今後は、助産師の中でも高度な知識と豊富な経験を有する人がより重宝される流れが出てくるかもしれません。
助産師資格の取得はゴールではありません。実務経験を経ながら、将来を見据えたキャリアプランを常に考えていくことがこれからの助産師いは求められています。
助産師は看護師としても働ける
少子化の影響などを考えると、助産師の将来的な需要が減少していくのではないかと不安に思う人もいるかもしれません。しかし、助産師資格を持っている人がどこにも就職できなくて困るような将来はおそらく訪れないでしょう。そもそも助産師は全員が看護師資格を保持しているので、看護師としても働くことができるからです。
厚生労働省の推計によると、2025年に看護師は6万〜27万人不足すると言われています。1人の職員が抱える業務が増大し、負担が増すことを考えれば喜べる状況ではありませんが、看護師がどこにも就職できないという状況は想像しにくいです。看護師としても助産師としても働けるというのは、将来の選択の幅がそれだけ広いということでもあります。
まとめ
助産師の将来性や需要、今後の動向について解説してきました。内容をまとめると以下のようになります。
- 助産師という仕事はなくならない
- 少子化の影響で超売り手市場といった状況ではなくなる
- 地域や就労場所の偏在により、まだまだ助産師が足りないところは多い
- 看護師としても働けるのが助産師の強み
今後は、なんらかの強みを持った助産師が重宝されるようになるかもしれません。実務経験を積むことはもちろん、スキルアップの学習を継続的に行っていくことが必要になってくるでしょう。どのような助産師になりたいかというキャリアプランを常に思い描いておくことも大切です。